はじめに
近年、M&A仲介会社の台頭によって事業承継の選択肢としてM&Aが比較的容易なものとなりましたが、M&A仲介や買手には経験やノウハウがたまる一方、売手となるオーナー社長にとっては初めての経験であることが多く、3者に情報格差が存在することは非常に大きな問題であるという話を時々耳にします。
私は、金融機関でアドバイザーとして3年間、事業会社の買手の立場として3年間M&Aに関わり、現在は事業会社のマネジメントをしながらファンド(買手)の立場でも事業承継の支援を行っています。アドバイザーと買手での経験を経て、自分が経営者となった現在、少しでも多くのオーナー経営者に適切な利益が還元され、事業承継後の会社が更に強くなり、後悔のない事業承継が成就する一助になればと思いこの文章を書くこととしました。ポジショントークも多分に含まれますが、その点についてはご容赦いただけますと幸いです。
概要
結論、M&Aを検討するのであれば、FA(フィナンシャルアドバイザー)⇒M&A仲介会社の順に、パートナーを選ぶべきだと考えています。勿論、その他にも検討すべきことは無数にありますが、取り敢えずM&A仲介と契約だけしてしまうというやり方は、その後の選択肢に大きな影響を与える可能性がありますので、上記をこのページの結論とさせて頂いております。その理由について、M&A業界の構造や課題を踏まえてご説明します。
M&A業界の構造
M&A業界は、主に「売手」「買手」「仲介/アドバイザー」の3者の立場で構成されており、それぞれ異なる目的と役割を持っています。
売手
売手は、株式や事業を売却する個人や企業です。特に事業承継を検討する場合、①後継者問題の解決、②事業拡大・経営の安定化、③社長のライフプラン(そろそろ疲れてきたなど)などが背景にあることが多いと感じます。経済的な条件は勿論重要ですが、我が子同然の会社を安心して譲るために、買手とのシナジーや事業承継後の会社の運営方針などの様々な要素を複合して、買手候補の選定を進めていきます。
売手は自身のリソースやネットワークに限界があるため、買手候補を探す際にはM&A仲介会社やFA、金融機関などに相談するケースが一般的です。
買手
買手は、事業会社や投資ファンドなど事業拡大や投資リターンを追及するプレイヤーになります。特に、成長が求め続けれられる上場会社においてM&Aは必須の成長戦略となっており、M&Aを検討する企業の数は非常に増えています。また、投資ファンドにおいても、M&A仲介会社という存在が生まれたことで多くの投資機会(M&Aを検討する企業)に接することが可能になり、投資ファンドの数も非常に増えています。
買手は自身の背後に株主や投資家が存在するため、M&Aの買収価格やその他の条件について、対外的に説明可能な合理的な意思決定をする必要があります。
M&A仲介/アドバイザー
M&A仲介は買手・売手の間を取り持つ、文字通り仲介の役割を果たします。売手・買手の希望に寄り添いながら、仲介として最適な売手と買手をめぐり合わせることに価値を発揮します。他方で、アドバイザーは買手又は売手のどちらか一方のみをサポートし、専門的なアドバイスを提供することに価値を発揮します。
M&A業界の課題
一般論として、下記のようなポイントがM&A業界で問題視されています。
売手・買手の情報格差
多くのオーナー社長にとって事業承継やM&Aは初めての経験ですが、買手は過去に何度かM&Aを経験していたり専門人材を自社に抱えているなど、ノウハウや経験値に圧倒的な違いがあります。経験がものを言うM&Aにおいて、適正な譲渡価格の算定や契約書の作成、交渉戦略など、多くの場面において、知らないうちに買手有利な状況になっているケースは数多くあると思われます。
例えば、株式譲渡契約(=M&Aに必要な契約書)で、表明保証違反の補償額に上限を設けないケースがあります。場合によっては、何かあったらM&Aの譲渡対価を全額返金、何ならプラスで補償しろということにもなりかねない、非常にリスキーな契約になっています。そこに経験者がいれば、間違いなく表明保証違反に上限は設けますし、適切な上限の設定方法にも勘所があるはずです。
M&A仲介会社が抱える利益相反の構造
上述の通り、M&A仲介は買手・売手の双方の希望に寄り添う必要があるため、利益相反の問題を抱えています。彼らのビジネスは、いかに多くの案件を成約させるかが胆になるため、売手・買手にとって心地よい落とし所を探ることを目指しています。それによって、より成約確率を上げるために低めの価格目線でコントロールしたり、契約書の作成において実は交渉した方がよいもの(例えば、表明保証違反など)を敢えてまで論点化することはしないなどの実態が存在すると想像しています。
理想的なM&Aの進め方
あくまで考え方の一つではありますが、冒頭でお伝えした通り、M&Aを検討するのであれば、FA(フィナンシャルアドバイザー)⇒M&A仲介会社の順に、パートナーを選ぶという方法もあり得ると思っています。現状、売手にとってのM&A業界は、専門的なアドバイスと買手を探すためのマーケティングがトレードオフの関係になっています。魅力的な会社であれば買手候補を集めることにはそれほど苦労しないため、まずはFAに相談してみて、上手くいかないようであればM&A仲介会社を検討してみる方が、機会損失を減らすことにつながると思います。
最近、M&A仲介会社に対する規制が強まっており彼らに対してやや批判的な記載もありますが、M&A仲介とFAにはそれぞれメリット・デメリットが存在するため、売手や会社の状況に応じて使い分けることが重要だと考えています。
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